ここ数年は冷夏と雨の印象があったためか、今年は至る所で“猛暑”とい う言葉をよく聞く。
しかし、これこそが我々が青春を謳歌した“日本独特の夏”、そしてその醍醐味ではないだろうか。
この猛暑は、金融危機の底からは立ち直ったものの相変わらず驚異的なデフレ・円高・株安で冷え込んだ日本の経済には追い風となり、経済効果も絶大で、ビー ルや清涼飲料水・アイスクリーム・エアコンの売り上げが急激に伸びているという。いつも猛暑はまっぴらゴメンという自分も、今年の夏はなぜかこの猛暑がと てつもなく刺激的で嬉しく感じる。20代の頃に過ごした“熱い夏”を思い出すためであろうか?
 
さて、この猛暑による経済効果に最も敏感な音楽があることを忘れてはならない(いや、これを読んでいる面々が忘れるはずはない)。今年のTUBEのアルバ ムは軒並み売れ行きが好調かどうかはオリコンデータを入手していないのでよくわかっていないが、そう信じたい。猛暑日が一日増えるごとに2000枚、ある いは最高気温を1℃更新するごとに5000枚の売り上げに貢献、なんていうデータがあるわけではないが。今年は結成から四半世紀。記念すべき年のためか、 アルバムの造りはこれまでの集大成という感じ。TUBEの音楽全てが網羅されている
 
これと対をなすように、渋い夏・涼しい夏を書かせたら右に出るのは80年代の山下達郎のみ、という人物がいる。80年代に“夏・海”と形容され、ある筋で は“夏・海・達郎のコピー”とまで揶揄されたが、これまたリゾート・ミュージックたるをよく知っている、今年50歳を迎える“角松敏生”そのひとである。
 
今年の夏リリースされた彼らの2枚のアルバムを突き合わせると、夏がもたらすその魅力を浮き彫りにし、夏を思う存分楽しむ空間を提供してくれる。火照って クールダウンというサイクルにより、人間は汗をかいて体温調節するという当たり前の行為を行う。しかしこれこそ、人が五体満足であることの証である。人間 が生命を維持する上で肝要なこの行為、これら2枚を聞いているだけで人間の体内にこの現象を引き起こすという一種のミステリアスな力を持つ。そして、2枚 セットで夏の昼と夜を一気に駆け抜けることができる。対照的なこの2枚について、この夏は語りたい。まさに、聞いている人が安心して全てを任せ、無条件で “まな板の上の鯉”になれる、そんなアルバムである。

まず、TUBEのアルバム。タイトルは “Surprise !”だが、特にサプライズ的な要素はなさそう。今年の夏を25年の節目と捉え、1つのストーリーにまとめたような内容。
TUBEファンなら、誰もが待ちわびた太陽の季節。1曲目“太陽のサプライズ”から歯に衣着せぬような、ありとあらゆるエネルギーと情熱を注ぎ、100% 身を捧げ全てを投げ打って、夏へ飛び込むイメージ。夏ごとに新しく生まれ変わる自分に期待、周りをあっと驚かせるような魅力的な自分に変身して年齢を重ね るごとに輝きを増す、そういった生き方が理想。これまでの自分さえも知らない自分に会えるかも。太陽の光はphysical的には生命を育むことは周知で あるが、mental的にも効果ありと言えよう。しかし、夏になるととたんに綺麗になったり元気になったりする女性がいるが、これってやはり“夏”が持ち うる独特の、全ての季節を超越する神秘的なパワーなのか??
2曲目“灼熱らぶ”はレトロなGSサウンドで、イントロのギターからして“爽やか”というよりも“ギラギラ”といった感じの太陽による焦げ付きと、直射日 光で熱中症になりそうな、めまいと妄想の中、太陽の熱で灼熱地獄化した“恋とロマン”を追い求める、ひと昔前の男女の駈け落ちさえもしかねない昼メロに出 てくる70年代のラブストーリーか。
湘南を横切る134号線は海水浴シーズンは大渋滞で“駐車場呼び込みのオバちゃん”があちこちに。今年の猛暑を歌うかのような、蜃気楼の湘南。

3曲目“愛はカーニバル”はサンバ調。これまた、野外ライブで聞くと、スタジアムの熱気によって地球の裏側のお祭り騒ぎが飛び火してきそう、CDで聞くの とはまた違った雰囲気となるだろう。熱い嵐がスタジアムに吹き荒れることだろう。
4曲目は“Lady September”。珍しく9月の曲。人気(ひとけ)のなくなったビーチで恋人との記憶、そして蜃気楼と絡み合った複雑な気持ちを描写した光景。これか ら先、また夏が来るまで何ケ月も待たなければならないというやるせなさ。しかし、こういった後悔・甘い記憶に酔う感覚さえも、年をとると忘れていってしま う現実が悲しくもある。
5曲目“波乗り娘に恋しても”はあの“渚のMerry Boys”風で、ちょっと80年代のTUBEを懐かしめる。昔は週末Surfer(あるいは週末Diver)だった自分をもう一度取り戻そう、といった感 じか。湘南海岸沿いのサーフィンショップかダイビングハウスでの貴重な週末。週末の天気が気がかりで仕事が手に付かない、うーん確かに昔は(今も?)そう でした。恋よりも難しいのは波乗りって、やはり恋の方が難しいのでは?波が恋人だなんて、それは単なる強がりである。曲の終わりに近づいたところで転調す る盛り上げ方もGood。

6曲目“Shaping Up Your Heart In The Summer Breeze”はパワフルな女性コーラスをイントロにもってきて、部分的に“一人になっちゃった”風かと思わせるが、このアルバム中、音が最もストレート で力強いTUBE流R&Rのアレンジ。
7曲目“勇者たちの挽歌”は久々にブルース調の曲でしっとりであるか思いきや、“君だけのTomorrow”的な一面も。また、このアルバム一番のねちっ こいギターも聞きどころか。渾身を奮ったボーカルにより、この曲の世界にぐいぐいと引きこまれる、不思議な力を持ったナンバー。
8曲目“風の街”はアルバムのコンセプト“Surprise!”の1つ。かっくんのボーカルは、他のメンバーに比べると安心して聞けるからいい。
9曲目“魔巣華麗奴“はサビまでは”あー夏休み“、サビから”燃える煙る〜“ といった2部構成。”マスカレード“は仮装。
日常の自分に仮面を着せて、夏の誘惑と真っ赤な太陽の情熱に魅せられて、複雑に絡み合う男女の恋の幻想。
10曲目“I’ll Be Your Love Shower”はアダルト風で、TUBEには珍しくブラコン調。英語詩がうまくメロディーにのりそう。“爪先立てて海へ、モンローウオークしてい く。。。”あの70年代の懐かしいAORナンバーとは少し雰囲気が違うものの、青い渚を(ダイナマイト・ボディの)ビキニの淑女が歩く姿をしのばせる。

11曲目“絆”。25年の長きに亘って作られたTUBEの音楽は、メンバーとファンとの貴重な心の架け橋。リリースされた当初は単なる“1曲”であるが、 それがメンバーとファンの愛着あるいはライブでの連帯感によって、曲が持つスケールや存在感は拡大され熟成され、貴重な音楽へと完成されていく。数々のそ んな曲を見てきている自分としては、“絆は音楽”、は納得のキーワード。
12曲目、ラス前“Return To The Border Line”は、サウンドが若い! 若き日々のTUBE、90年代前半のノリである。一見単調に聞こえるのであるが、この頃ってあまりも人生の悩みもなくシ ンプルかつ自由気ままに生きることができた、その感覚がよみがえってくるような妄想にいる自分。いや、それはやはり妄想だったのだ。。。    
ラスト“最後のLove Song”は、“十年先の〜”のようなイントロとじっくりとしたバラード。“大サビ+ギターソロ”というTUBEバラードの鉄則を固く遵守しており、この あたりも基本に忠実な曲作りをうかがわせる。ファンに対して語っているような、そしてファンとの“絆”の銀婚式。金婚式まで、お互いがんばりましょう。

さて、もう1つのアルバムに移ろう。
猛暑では、マイナス3度に冷えたビールやソーダアイスなど、キーンと頭のてっぺんから爪先までをクールダウンしてくれるモノの需要が急激に増加する。そう いった猛暑中の避暑に最適なアイテム、今年の角松敏生のアルバムは。タイトルは“Citylights Dandy”。そして、おもわず“ジャケ買い”してしまいそうな、都心の夜をモチーフにした洒落たジャケット。赤いスポーツカーのサイドシートに美女をは べらせ、狭い後部座席には薔薇の花束、白いスーツで運転するバックミラーかサイドミラーに映る自らの姿に満面の笑みを浮かべる氏の姿が想像できる。しか も、車のBGMはもちろん、本アルバム。およそベイブリッジかレインボーブリッジを渡り、時間は午前0時を少し回ったところ。

アルバムタイトルだけでどんな内容かおおよその見当がつくが、この人の音楽の18番“夏・海”と双璧をなす、もうひとつの顔“都会と夜”。92年に活動を 凍結し98年に解凍後、新たなことにもチャレンジ、アイヌ古来の楽器・三味線などもレコーディング取り入れ、いつも新たな事に挑戦する姿勢には感服する が、やはり80年代の角松をもう一度見てみたい。そんなファンの想いを現実化したアルバム。84年リリースのアルバム“After 5 Clash”の現代版と言いつつも、音楽ジャンルがAORから始まってブルース調・ボサノバ・ファンク・ブラコンなど、ありとあらゆる分野に展開されてい る。ピアノが圧巻で、あの日本一のスタジオピアニストと言われる“佐藤博”的な素晴らしい演奏、そしてこれとエレキのかけあい。アルバムは、フュージョン 的要素も含まれる。

タイトルを見るだけでどんなに大人のおしゃれな曲か、発売前から想像するのが楽しい。”HOT LAZY NIGHT”、”Fly By Night”、”Twilight Moody Blues”、”134” など。この中で最高に気持ちいいのが、昼と夜の境目であるたそがれの海岸線を歌う“134”。“灼熱らぶ”の湘南とは異なり、134号線はガラガラ。夕陽 が江の島の影にさしかかる一方で、一台のクーペが134号線をぶっ飛ばす。こんな夏全開の曲は、ここ10年ではお目にかかったことがない。合コンで“スト ライクど真ん中の女性”と向かい合わせになった気分、このチャンスを生かさないと(笑)。

ミュージシアンにとって、音楽の創作意欲を掻き立てられるものとして、“恋愛”は重要な要素である。いい曲を作る人には、これこそが生命線であろう。しか し、この人は長年のキャリアにより、そこまでしなくても曲が書けるらしい。” Mrs.Moonlight ”という曲は、氏の住んでいるマンションでいつも同じ時間帯にすれ違う40過ぎのムチャクチャ綺麗な女性にインスパイアされて書いたという。綺麗な女性と すれ違うだけでおしゃれな曲が書けてしまうこの“才能と下心”、これは角松氏ならではの創作モチベーションなのであろう。この女性とは果たして、M田久子 タイプなのかそれともK木瞳タイプなのか。まあどちらでも大歓迎であるが(笑)。やはり、綺麗な女性はこういった音楽を造るための原動力になっているの だ。

とにかく、氏の夏の曲はTUBEの夏とは違った趣きで、造り出される音自体にリッチな透明感がある。50分の高級ソープ(行ったことないが。念のため。) でネっとりウっとり至れり尽くせりのサービスを受けて体の底から骨抜きにされた、そんな恍惚感を味わえる、と形容すればアルバムの様相が理解してもらえる だろうか。
80年代角松を知るファンにとっては、この上ない至極のひとときである。これが現代版、♪せめて今宵は終わりのない“No End Summer”なのか。
 
・まとめ
なぜか今年のTUBEのアルバムの1曲1曲のある部分で過去の曲の面影が見られ、一瞬懐かしき時代にタイムスリップしたかと思きや、またまた一瞬にして 2010年に戻るという、過去と現在を幾多に行き来する自分がそこにある。そして、25年の歳月の全てはラストの“最後のLove Song”で語られる。
一方、角松敏生は音づくりに凝り、音楽が大量生産されては捨てられていくこのご時世で、高級マグロに舌鼓みを打つような贅沢な時間がを流してくれる。
ボビー・コルドウエル、シカゴ、ボズ・スキャッグスといったアメリカのAORシンガーと対峙する、和製AORの頂点を極めたかのような華麗な大人の音楽に 完成されている。
来年の30周年にも期待!
 


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