洞爺湖サミットは終わった。
参加諸国は、2050年には温室効果ガス排出を50%削減させるという途方もない数字を目標として謡い、具体的策も議論することなく終わってしまった。 “温室効果ガス”は、大気中の熱が成層圏を通って宇宙空間に放出されるというプロセスを阻み、熱が地球大気中に閉じ込められて地 球上の温度を上昇させるという“地球温暖化”の元凶として、また地球に対する“悪の枢軸”とされてい る。

このご時勢、この“温室効果ガス”を排出するだけでも批判を浴びるにもかかわらず、大気に直接的に熱を放射し、地球の大気温度そ のものを上げてしまうという“常識破りなバンド”が日本に存在した。今年6月発売のシングルは、熱いラテンフレーバーで日本全国 を熱風に巻き込み、さらには、アルバムもその流れで火傷するぐらいヒートアップするのかと誰もが予想した、ところが。。。熱い曲の後には涼しい曲で空気を クールダウン、そしてまた暑い曲と涼しい曲の繰り返し、とても“地球に優しいアルバム”であることが判明した。
 



アルバムの内容は、概していつもの如く爽やかな夏。そして、ニュー・シングルが強調するように、部分的に異国情緒豊かな内容も含まれる。それらにはヨー ロッパだけでなく、なんとなくオリエンタルな雰囲気をも醸し出しながら、地中海とその周辺の砂漠のオアシスを描写したような曲調も垣間見られる。
スペイン、モロッコといった日本人には極めて魅惑的でエキゾチックなリゾート。
目を閉じて外界を遮断し自分だけの想像の世界を作って聞いていると、自分がまるで異国空間にいるような妄想に駆られる。
 
エキゾティックと言えば、79年に“異邦人”という曲がヒットした。非常に神秘的で異国情緒たっぷりの名曲だったと記憶してい る。しかも、歌い出しはマイナーコード、途中でメジャーに転調、そしてサビはマイナーに戻る、といった歌い出しからサビまでにコードが2転3転するという ユニークな構成。昔懐かしいこの曲を思い出させた、サビまでメジャーでサビからマイナーという構成の曲があるが、この曲1つを取ってみても、非常に貴重な 出会いである。
 
「ベサメ・ムーチョ!」といったラテンナンバー、さらにサンバ、ボサノバ、レゲエ風のナンバー、そして“これが正真正銘のTUBE! ”という爽やかな王道的ナンバーで構成され、あいかわらずのバラエティに富み、様々なジャンルに亘った曲作りがなされている。そして、過去の 作品を聞き込んだコアなファンが十分楽しめる完成度を誇っている。そして、ラストは期待通り、バラードで締めくくる(なんとなく、「Once In A Blue Moon」風の)。ほぼバラードのパターンも出尽くしたか? という感は否定できないが、それでも夏のアルバムには欠かせないアイテム。サビの “宝物なんだね〜”では、折り紙つきのパワフルな声量と伸びのあるボーカルを見せつけてくれる。
 
ここで1つの提案がある。
アルバムで最も重要な1〜5番の順番について、順序を変えてマイナーチェンジしてみては!? 単刀直入に言うと、5番と1番を入れ替える。
5の「Glory Days」はなんといってもTUBEの音楽の王道的ナンバーで、こういったナンバーがあってこそ、TUBEのアルバムをゲットしたという満足感がある。TUBEの超スタンダードで、この曲調は久しぶりに聞いた感がある。
5をトップに持ってくると。。。 イントロのギターが、胸をワクワクさせる夏の到来を感じさせるこの盛り上がり感、真夏への切り込み隊長。そして、 “なんだ、今年のTUBEって爽やかじゃん”、という安堵感をもたらしておいて、さらに2番、3番とヒートアップしていく過程に してみては? ん〜、この2番がなんとも味のあるクリーンアップへのいいつなぎ役になっているではないか。往年の“巨人の川相” のような存在である。
試しにこの順序でアルバムを聞いてみた。
すると、「Beach Time」、「Only Good Summer」、「N・A・T・S・U」のように過去の傑作アルバムと同じく、快適で爽快な音楽のチューブ(サーフィン用語で、波が筒状になった状態のこ とをこう呼ぶ)に飲み込まれる快感を覚えるのである。“蛍”の後の“Paradiso”の方が、非常に メリハリが効いた流れになる。
 



先日、約1ヶ月前に子供たちが祖父からもらってきたクワガタが息を引き取った。なんとも悲しく、なんともやるせない。昆虫の一生は短かすぎる。 “蛍“も例外なく短命な生き物である。夏の訪れからその終焉、まるで夏の昆虫の一生のように本当にあっという間に過ぎ去ってしま う、この短い季節。これを見事に1枚のアルバムで表現している。いろんな視点で“夏”を捉えた曲で構成されている。
そして、今年のアルバムは、いつも通りの“上質なクオリティと標準装備”にプラスして、“異国情緒”というオプションが付いた感じ。と書いているそばから、3?回目の夏もすぐに去ってしまうこの悲しさ。
 
単なる個人的な考えであるが、アルバムのキーワードは、“妄想”と“幻想”。
アルバム2曲目の“夏の魔法(magic)”のイントロで女性が囁く、“Everything around me became suddenly unreal, this is dream・・・”。現実から夢へのテレポーテーション(!?)、あるいは、“アラジンの魔法のランプ”の魔人が、 突然目の前にパラダイスを出してくれたら。。。
これまでのTUBEのアルバムの多くで描写される“パラダイス(楽園)”は、南半球に位置するエメラルドグリーンの海に囲まれた 珊瑚礁の島。しかし今回は、砂漠に突如現われた“オアシスのようなパラダイス(楽園)”。だから、その実態は蜃気楼かもしれな い、といったニュアンスを暗に含んでいる。砂上の楼閣のように、砂嵐で脆くも吹き飛んでしまうような、非常につかの間のオアシス。
 
2枚のシングルが、今回のアルバムのコンセプトを明確に表現している。
シングル「蛍」は、短い生命ではあるが夏の風物詩“蛍”に、”一瞬という短い時間でもいい“、愛する人 への一途な想いを託す。しかし歌詞をよく吟味すると、1つの生命体が毎年毎年の夏に輪廻を繰り返し、”蛍“に託されたこの想いは 永遠に不滅である、というメッセージが浮かび上がってくる。まさしく、切ない歌詞とメロディーが見事に融合した傑作ではないだろうか。
 
一方、シングル「Paradiso」は「蛍」とは対照的に、「失楽園」・「愛流」のような世界。
愛欲に溺れた男女が織りなす許されぬ掟破りの愛、罪と罰に苛まれながら、デフレ・スパイラルのように悪循環の渦に巻き込まれていく二人。二人が発する愛の 放射熱は、氷が瞬く間に水蒸気に昇華し、それでも飽き足らぬとばかりに、すさまじくも虚しくもそれを空気中の1粒子へと変えていく。

今年のTUBEのアルバムは、この瞬間を“Paradiso”と表現しているように思えてならない。
そして、この恋は忘却の彼方へと消え失せてしまう運命にある。想像の世界にだけ存在する“Paradiso”。
現実を忘れ、わずかでも“Paradiso”を実感できるよう、ストレスに苦しむ現代の30,40代の“つかの間の休息”を提供する配慮が感じられる。
ふと何かの外的なショックによって、すぐに現実に呼び戻されてしまうのが哀しい性であるが、少しの時間でもいい、幻想でもいい、夢を見ていたい、という願 望は誰にでもあるのでは。11曲目「忘却のシャドー」を聞き終えたところで、朦朧としていた意識が突然はっきりし夢から覚める。ここで現実に戻って、12 曲目で最愛の大切な人とゴールイン。うまくHappy Endとなる展開となっており、聞いている側としてはひと安心。
 
さて、このアルバムを引っさげて何千マイルも離れた“Paradiso”にでも行ってみるか!?
現実からの逃避、文明の利器はすべて日本に置き去りにし、時の流れを忘れ、わが身を何物にも任せず・・・。そして、“世界の果て ”まで行ってもそこはやはり“夏”だった、ということを実感するのも粋なものであろう。そのときこそが、 “Paradiso”への扉を開いた瞬間!
しかし、前述したように、「見つけた」と思い込んでいた“Paradiso”は蜃気楼のように空中に描かれた単なる妄想かもしれ ない。例え実在しなくても、やっと見つけた異次元のようなその空間は、貴方にとっての“人生のParadiso(楽園)”なの だ。

今回のアルバムは、聞く人それぞれが自分だけの“Paradiso”を追求するためのアシストであり、やはり自力で自分だけの楽園を見つけるしかない、というのがアルバムからのメッセージであろう。

さあ、貴方自身の“Paradiso”を見つける旅に、今からでも遅くない、出かけよう!!
 
以上 

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