内容
 プロローグ
 きっかけ
 感じること
 まとめ


プロローグ

男性ヴォーカルで、氷のようにつややかで透き通った声のシンガーは非常に少ない。
小田和正、山下達郎、稲垣潤一、杉山清貴、佐藤竹善、財津和夫などぐらいであろう。
ものまね番組で、彼らの真似をした人を見たことがあるだろうか? 
話す声と歌声とのあまりのギャップに驚かされる。

今回取り上げるのは、70,80年代に『オフコース』のボーカリストとして一時代を築き、ソロになっても、その時代のトレンドの潮流に左右されることなく、頑なに独自の世界を黙々と築いてきた小田和正氏について語りたい。
年齢を重ねても、あの声の透明度は衰えるどころか、さらに透明度を増すようである。本当によく声が出ている。

人間というものは総じて、自分にないものに憧れるものだ。透明な声は、聞くものの心が洗われる。一点の曇りもない、"無"の境地を自然と体感させてくれる。
そのような威力をもっていると言える。

ピアノで弾き語りのスタイルは、オフコース時代も今も変わらない。
イントロが、しっとりとピアノで始まる曲が多いのが、非常にうれしい。
あの透明な声とピアノの落ち着いたサウンドがなんとも調和して、聞いている自分だけの世界にとろりとろりと落ちていくのが、心地よい。
透き通る声が周囲に解き放つ雰囲気は、その音楽が流れる部屋では、あたかも空気清浄機が稼動しているがごとく、清涼される。緑の木々が太陽の光を浴びて光合成し、酸素をめいっぱい空気中に放出しているように。


きっかけ

さて、去年からずっと長期出張で家を離れるのが当たり前となった生活が続いていた。
そういう環境の中で、小田和正氏を聞くようになった。
というのは、上でも書いているが、歌によって非常に心が洗われるからである。
以前は、小田氏の曲は、"清く正しく美しく"、優等生的なニュアンスがあり、どことなく近づき難いものがあった。それに、歌詞が非常に抽象的で一体何が言いたいの?ダイレクトにメッセージが伝わってこず、それが何かしらきれいごとばかりを歌っているように思えた。
が、今はちがう。澄み切った高い声で、"人生の意味"を、"愛とは何か?"ということを教えてくれる。

歌詞に出てくる『あなた』や『君』とは、昔は特定の女性に置き換えていた(笑)が、現在では、この小田氏の曲を聞いていると、それはこの世に自分の分身となって生まれてきた自分の娘たちと同一化している自分に気づいた。
それにより、やっと、この人の曲の意味がわかり始めたんだな。
これまでは自分のことだけを考えてきた。しかし今は、自分の子供たちの未来を考える。どんな世の中になっているのか、どんな人と出会い、どんな人生を送るのか。自分達、両親のことをどう思うのか。
いろいろと考えることは多いので、このひとの曲は、そういう自分に静かにささやいているように聞こえるのである。


感じること

歌詞は非常に意味深である。例えば、
「言葉にできない」
 ・あなたに会えて本当によかった。嬉しくて嬉しくて、言葉にできない・・・。
「風の坂道」
 ・君と初めて会ったそのときから自分が変わっていくのがわかった。
 ・ありふれた日々が輝いていく、ありふれた今が思い出に変わる。
 ・誰のものでも誰のためでもない、かけがえのないこの僕の人生・・・
「緑の日々」
 ・君となら生きていける、君のために僕が生きている。
「風の街」
 ・それでもここは風の街、いつでも同じ風が吹いている。

これまで「恋愛」とか「友情」とかにこだわった歌を聞いてきたが、家族を持つようになって子供の成長、子供と自分たち夫婦の将来のこと、親のこと、いろいろ思考することが多々ある。
そのような想いを巡らしながら、説教するわけでもなく、教え諭すともなく、極端に落ち着いた冷静な第3者的でもなく、何か自分の内側の思いを代弁してくれているように歌を歌っている。

上記したが、歌詞の内容が非常に抽象的というのも特徴のひとつだ。理解するのに時間がかかるが、一旦理解すると、リスナーの心の奥底までジーンとして染み透ってくるものがある。感情移入されてしまう。
東北大学建築工学卒業、早稲田理工大学院の建築工学専攻を卒業、という立派な学歴をもつ。このひとは何ゆえにミュージシアンになったのか?『普遍の愛』を歌うが如く、美しい歌詞は、この教養から来ているのかもしれない。

この新緑が目を楽しませてくれる風薫る5月の風の中、小田氏の曲は映える。
自転車に乗って、『キラキラ』なんかを口ずさみたくなる。
もっとも、どんな季節にも万能だ。
新緑の季節、夏のたそがれ、秋の夜長、早春。すべての季節に順応できるパワーを持っている。季節の移り変わりの瞬間、とその風情を独特の音で表現する。

さらに、"風"をタイトルにした曲は多い。
「風の街」、「風のように」、「風と君を待つだけ」、「風の坂道」、「風に吹かれて」。
『風』は、その時代時代に流れる音楽に例えられる。何気なく、吹いている『風』。しかし、それは確実に、人々が過ごす日々の中で、存在感がないかもしれないが、その後の人生において、思い出として心の中に永遠に活き続けているような気がする。それは、そのひとそれぞれが歩いてきた道のりとしての、人生と同化しているのか。
『ラブストーリーは突然に』の歌詞にも、
君のために翼になる、君を守り続ける、やわらかく君を包むあの風になる・・・。このような表現が。非常に抽象的であるが、なんとなく、言いたいことはわかる。
余談だが、『ラブストーリーは突然に』は、オフコース時代の『君が嘘をついた』みたいな曲を作って欲しいと言われて作ったという。確かに、歌詞を置き換えて歌えば、うまくつながりそう。

今までは、曲に出てくる『風』のイメージとしては、遥か何千マイルもの彼方の南国の潮風を、自分が音楽を聞いている"この場所"へ運んでくれるというものであった。
また、自分がその南国にいるケースでは、目の当たりにして味わうことが出来る爽やかなSea Breeze。この人の音楽は、その観念を変えてしまった。

また、"愛"をタイトルにした曲も多い。
「愛のうた」、「愛を止めないで」、「愛の中へ」。

山下達郎を『職人』と呼ぶなら、この人は『芸術家』と呼ぶべきであろうか。もちろん、ミュージシアンは芸術家ではあるのだが、演奏が始まると、他と差別化する強烈な”オーラ”がある。
この二人は、作曲・作詞・編曲をすべてこなし、プロデューサー的な立場でもあり、かつ現役としてバリバリにステージで歌っている。音楽界では、(私の知っている限り)この二人以外でそのような実力を持つのは、和製AOR「角松敏生」氏ぐらいであろうか。


まとめ

とにかく、短くも長い人生のその瞬間を捉え、過去・現在・未来の3者をターゲットに愛を歌うシンガー。とでも言っておこう。
(そういうわけで、TVでは、生命保険会社や車のCMに多用されている、というのも納得できる。)
それゆえに、人間的に蒼い10代や20代でこのひとのうたを理解しようなどと決して思わないことである、と言いたい。これは私が実際に経験したものである。
これまでの人生を振り返り、落ち込んだときにもこれからの人生に希望を持っていこう、これまでの後悔を忘れて失敗して失った時間を次のチャンスで取り戻そう。
そういう勇気を与えてくれるシンガーである。


※文中に引用されている曲は、主に、セルフカバーアルバム『Looking Back』、『Looking Back 2』、そして最新ベスト『自己ベスト』からである。
※5/25に、小田和正氏がレギュラーを務める音楽番組を収録した4枚組のDVDが、発売された。早速、予約して購入した。この人の音楽のルーツを垣間見ることが出来る。


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