桑田佳祐。

言わずと知れた、国民的バンド「サザンオールスターズ」のヴォーカリストである。

 粋な文句とちょっぴりエッチな歌詞、何を言っているのかよくわからない独特の歌い方。英語かはたまた日本語か、ドスの効いたダミ声、時折クレイジーなシャウト! 80年代、"夏といえばサザン"、というイメージを欲しいままにしてきた彼らではあるが、85年に訳あって、急遽、活動を停止することとなった。桑田はその後の87年秋に、初めてソロシングルをリリースし、それ以来、ソロの作品を世に送り出し始めた。90年代に入っても、サザンの活動の合間にソロ活動を続けてきた彼が、今秋待望のソロアルバムをリリースした。2001、2002年と精力的にソロシングルをリリースしての今回の作品。さて、彼のソロ活動について、振りかえってみたいと思う。(えっ、サザンの方がいいって? またの機会にぜひ。)

 

1987〜1988年

single  album

 85年秋、大ヒットとなるアルバム「Kamakura」をリリースしたが、桑田夫人が出産のため85年の冬以降のサザンの活動は中止、86年になじみのメンバーとともに「Kuwata Band」を結成した。86年1年間だけの活動という前提のもと、シングル4枚とアルバム1枚をリリース、全国ツアーを経た後、人気絶頂にもかかわらず公約通りに、秋、解散した。87年秋、「悲しい気持ち〜Just A Man In Love〜」で初めてのソロシングル。88年春2枚目のソロシングル「いつか何処かで」をリリース。サザンの流れを汲む、透明感のある非常にポップな感覚の2枚のシングル。これらでは、ソロというものを色濃く出したテイストに仕上っていると言えよう。サザンでは、ちょっとしたおふざけなど何でもありだが、ソロでの歌い方は非常に個人的に真剣に歌っている(?)感がある。

 88年夏、サザンの活動が再開された"真夏の夜の大復活祭"と題された野外ライブツアー前の7月、初めてのソロアルバムがリリースされた。タイトルは、ずばり「Keisuke Kuwata」。彼のartisticな似顔絵がジャケットに描かれ、アルバムに収録されている曲は、文字通り彼の"自画像"である。桑田、小林武史、藤井丈司の3人だけでプロデュースされ、スタジオにこもっての作品である。シンセサイザーの使い手である2人のサポートによって作られただけあって、シンセを主体にし、ベースやドラムも含めて、ほとんど打ち込みで作られた音。デジタルレコーディングもほぼ確立されつつあった80年代後半の作品であるが、それでも音に適度な温かみがあってアナログっぽいところがあるのもうれしい。アコギ(ウクレレも)も所々で使用しており、テクノには極端に走っていない。内容はヴァラエティに富んでいるが、強いて言うなら、夏から秋・晩秋から冬 という季節の微妙な変わり目を描いたバラードと軽妙なロックで構成されている。特に、バラードはアダルトな雰囲気をにじみ出しており、これまでサザンでヒットを飛ばしてきた余裕からか、非常に落ち着いたものとなっている。2枚のシングルに代表されるように、全体的にポップな仕上がりになっており、サザンファンとしては、非常に満足のいく出来栄えである。相変わらずの英語のような日本語のような調子で歌っており、歌詞カードを見るまでは歌詞の意味がまったくわからない。そして、山下達郎効果か、コーラスはほとんど桑田氏自身の声を多重録音して作られており、曲の隅から隅まで、彼のソロへのこだわりが感じられる。

 

1993〜1994年

single   album

 93年10月、3枚目のシングル「真夜中のダンディー」をリリース。R&B のリズムに桑田のねちっこいヴォーカルがうまくのっかり、まさに桑田節。94年8月、4枚目のシングル「月」をリリース。これは、これまでのシングルとは趣が異なり、日本昔話のようなモノクロの情景が想像される。晩夏にリリースされたこともあって、しっとりとした「夏の月」をリスナーの脳裏に焼きつける。日本古来から伝わる民謡、元ちとせのような世界か。Banjoも飛び出す。彼の歌詞には、とにかくとにかく横文字が多い。が、これは日本語を大事にした叙情的な桑田ソロ。これまでは明・暗のうち、"明"の世界を主体としていたが、ここで初めて、"暗"の世界が描写された。イントロ、間奏部に初めてハーモニカを駆使しているが、このためにハーモニカを猛練習して、レコーディングに臨んだとか。94年9月、2枚目のアルバム「孤独の太陽」をリリース。そして、ライブでの盛り上がりどころに使いたいがためにレコーディングされたという、5枚目のシングル「祭りのあと」を10月にリリース。「失恋」をテーマにした本シングルであるが、かなり人間臭いメロディと歌詞。これまでのシングルは、わりと渋系だったのに対し、大衆的でとっつきやすい雰囲気を持っているのも魅力の一つ。彼の人間臭い生き様をもろに前面に押し出したナンバーである。さて、ライブの方は、ソロ活動にもかかわらず、サザンの曲、Kuwata Bandの曲まで演奏してくれるという、ファンサービス満点のツアーであった。コンサートというより、エンテーテイメントという方がふさわしいか。年末までコンサートツアーは開催された。

 

2001〜2002年

single 

 2000年、サザンとして「TSUNAMI」、「Hotel Pacific」の2枚のシングルをリリースして、"サザン"ここにありと言わんばかりに、新旧のファンを魅了した。2001年再びソロとして7月に6枚目のシングル「波乗りジョニー」、10月に7枚目のシングル「白い恋人たち」をリリースした。この対照的な2作品について、個人的に語ることは多い。前者は、桑田が高校時代にすでに曲の基本構想は思いついていたとのことで、それを何十年も温めての後、今回のリリースとなった。 ピアノのイントロは、昔懐かしいアルバム「稲村ジェーン」の「希望の轍」を思わせる、何かわくわくする「夏」を予感させてくれる。その後、Steel Guitarで軽快にAメロへ。昨今の曲の中でも、ひと一倍「夏」を感じさせるナンバーである。誰もが期待していた、桑田サウンド。エッチさもなく、過ぎ去った「夏」を惜しむかのような歌詞は、"夏"という1つの季節にも、ああ、四季があるんだなあ、ということをあらためて思わせてくれるところがすごい! 後者はうって変わって、"冬の女王 広瀬香美"を脅やかすかのような一面の雪を思わせる"白"がテーマ。「夜に向かって雪が降り積もると・・・」で始まるこのイントロの部分、メロディと歌詞がいっしょにどっと出てきた、と桑田氏は語る。イントロは、パイプオルガン(?)とピアノで始まり、引き続いてピアノ伴奏でAメロへ突入。途中でベースが合流し、音の厚みが徐々に増していくのが手に取るようにわかる。この過程を順々に追っていくのも、この曲の楽しみ方の一つである。かなり凝ったアレンジと言えるだろう。オーケストラをバックにゴージャスな演奏風景が頭に浮かぶ。また、曲の起承転結もくっきりしている。ひとつ注目すべき点が、CDジャケットを見てもわかるが、TVで桑田氏本人がピアノの前に座って弾き語りをしていたこと。エルトン・ジョンをイメージしてのことなのか。10代の頃から桑田氏をTVで見ている私としては初めてのことであり、本当に弾いているのかは、ちょっと疑問! しかし、とにかくこの曲は、ひときわピアノの役割が大きい! 間奏は、ギターソロのあと、桑田氏の肉声によるぶ厚い低音と高音のコーラス大合唱である。山下氏「クリスマス・イブ」の間奏のアカペラのようなゴスベル風(かなり、大げさ!?)コーラスで、このときリスナーは至福のひとときを迎える。最後はお得意のファルセットで盛り上がりを見せる。

 

2002年6月、8枚目のシングル「東京」。

 2001年のシングルとは正反対となる、桑田ソロ"暗"の世界。ギターが生み出す重苦しいサウンドとズンズン響くベースの低音で、渋目のR&Bに仕上がっている。ポップな桑田ソロを期待していたファンには、ちょっと期待はずれか? しかし、心配ご無用。やはりC/Wには「夏の日の少年」、「可愛いミーナ」とソロの"明"の世界も同時に含まれている。「可愛いミーナ」は、典型的湘南サウンド。70年代の雰囲気がリバイバルした感じだ。「亜麻色の髪の少女」(だったか?)も今年の初夏から夏にかけて、音楽シーンをにぎわせていたが、こうゆう懐かしいサウンドを、このどんよりした景気の中、世間は求めているのか。"歴史は(やはり)繰り返す"である。相変わらず、ひと夏の恋をテーマにしたお得意のパターンであるが、非常に新鮮に聞こえるのはなぜ?

 

9月26日、待望の8年ぶりとなる3枚目のソロアルバム「Rock and Roll Hero」がリリースされた。

 全曲洋楽のような60〜70年代風のロックで埋め尽くされ、「波乗り〜」、「白い〜」が収録されると予想したのに、ちょっと残念。というより、これらポップなシングルを入れてしまうとこの2曲だけ浮いてしまうのだ。このアルバムには、「涙のキッス」もなければ「みんなのうた」もない。本当にあのポップなメロディをクリエイトした人なのか、と疑いたくなるぐらい、"サザン"とは全く一線を画しており、強固なロックンロールスピリッツを堪能できよう。2枚のポップなシングルからして、Newアルバムはポップな内容を予想していたが、私は、少し桑田ソロをなめていたようだ。彼の音楽ルーツを垣間見たようであり、彼の引き出しはこんなにも豊富にあったのか。

 

 今回、ソロにこだわって語ってきたが、なんと言ってもサザンとの違いは、ソロの作品は大衆化されていないこと。"サザン"ではヒットを意識してか、大衆受けするようなものが多い。ソロでは、ちょっと、エリート意識をもって作られているような印象がある(かなり、真面目に歌っている。)。ソロ活動をサポートするスタジオmusicianも、一流の人たちを集めており、音楽界での彼の幅広い人脈がうかがえる。個人的にやりたい音楽だけをつくるという、頑ななポリシーを感じ取ることができるのである。年を重ねても、"ミック・ジャガー"のように元気にステージで歌う、ロックンローラー、桑田氏の今後の活動に期待したい。

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