87年にリリースされた「リクエスト」は演歌のごとくロングセラーとなった竹内まりやの代表作となるアルバム。それから5年経ってリリースされた92年の「Quiet Life」。
22年も前だが、あの5年間ほど彼女のアルバムが待ち遠しかったことはない。そして発売当日に入手し、自分の部屋のステレオで聞けた自分にとって“初めての”竹内まりやのアルバム。これを聞いた日のあの感激は昨日のことのように鮮明だ。そして、ちょうど自分の現在の年齢を考えると、奇しくもこれまでの人生のちょうど半分に差し掛かったときのにこのアルバムがリリースされたことになる。

あの年は、危機的に沈滞していた我がテニスサークルに新入生が春に多数参加しその活気を取り戻した。
春から夏にかけてメンバーも固まりやっとサークルらしい雰囲気となり、和やかな友情・人間関係が実ることとなる嬉しい秋を迎えた。このように自分にとってこの上なく充実した環境の中でリリースされたアルバムだったので、ひときわ耳に心地よく響く音楽であった。
“人の心に種をまく”(誰かの名言)、そしてそこから愛情や友情が育まれる、何事にも変えられない人生の中でも最も貴重な絆を築くことができたその当時のメンバーには本当に感謝。
今思えば人生で最も幸せな時間を過ごした92年。アルバムリリースは晩秋でこれから冬を迎えるのだが、アルバム1曲1曲とともに冬も温かい心打ち解けるメンバーに囲まれた。

「リクエスト」で多くのファン層を獲得し、当時自称“シンガーソングライター主婦”であった彼女が自宅で書いた曲を夫である山下氏にプロデュースを依頼した作品。売れないわけがない。
主婦が感じる何気ない生活での幸福感や、女性が経験する初恋や青春の思い出と感情。それらの視点から書いたためか、老若男女から圧倒的な支持と共感を得て、彼女の人気を不動にしたアルバムでもある。
アルバム頭3曲だけで充実の内容。ここではこれらにズーム・イン。

アルバム1曲目は彼女の代表曲の1つ、「家に帰ろう」。
アルバム「リクエスト」以降2曲のシングルがリリースされたもののまっさらな新曲を聞くのは久しく、そしてこれまでの曲とは少し新境地のような、しかし温かいまりやサウンドは健在であることに安堵し、この1曲目でさらにアルバムへの期待感が膨らんだことは記憶に新しい。イントロの12ストリングスギターも、達郎コーラスも、何もかもが。
温かい家族の待つ“マイホーム”に帰ろう。サークルはまさにマイホームのような雰囲気だったので、この曲とサークルのメンバーの雰囲気が見事にリンクする。
しかし、歌詞は中年夫婦の倦怠期を歌ったものであり、まさに40年代なら誰でも抱える(今の自分を含め)環境。 中年夫婦に教え諭すようなメッセージも含み、まだ30代だった彼女がなぜこんな曲を書けたのか?!
ある意味、その当時の(今も)山下家の和気あいあいとした雰囲気が映し出されているように、個人的に想う。

2曲目「マンハッタン・キス」。
曲調が明るいので、詩をじっくり読むまでは彼女の十八番“不倫の曲”だとは分からなかった。
風薫る5月の穏やかな気候の初夏にリリースされたのと、毎週毎週サークルメンバ−が増えて日に日に活気が出てくる雰囲気と彼女の明るい声と曲調により、初めてこの曲を聞いた日には、女の執念やさいなまれた感情は微塵も感じられなかった。それも当然、22歳の若僧には、このような複雑な女心がわかるには10年早い。

舞台はニューヨークのマンハッタン。なぜこのような遠い異国での不倫がテーマなのか?理解できないが、映画のような恋。そして誰もが心の奥底であこがれているかもしれない非日常的な“不倫の恋”。
閉ざされたこのホテル1室だけが自分になれる場所、何もなかったようにワイシャツを着るあなたの愛しい後姿を見ているまだベッドの中の私、一夜だけのはかない幸福感と葛藤そして後ろめたさという複雑な感情。
私が悪いんじゃない、ただ出会いが遅すぎただけなの。。。自分の運命を恨んでも仕方がない。今後この二人はどうなるのか?
この二人の結末はこの曲を聞いているあなたに委ねます、といわんばかりの作者からのメッセージ。




3曲目「Forever Friends」。
女性はなぜ、いくつになっても昔の友達とおしゃべりをすればすぐに若かりし頃の簡単に戻れるのか。
女の子は誰でも、仲の良い2人組とか3人組とかで固まる習性がある。そんな永遠の親友というイメージの曲だが、サークルにも仲の良い2人組、3人組というのは数組あって、彼女らを見ていると今後の長い人生でもこの曲のようにこの19、20歳の頃の記憶が消失することなく大人になっても友情を育んでいくんだろうなあ、と傍らで羨ましそうに眺めていた先輩たち。私もその一人であった。
屈託なくキャーキャー騒ぐ彼女らの姿だが、この曲を聞けばそれを間近で見ていたこちらも20代初めに戻ることができる。

80年代の“オフコース”を聞くと昭和の良き日々を思い出すが、90年代初期のこのアルバムを聞くと、まだ記憶も鮮明なこの頃の平成の良き日々を思い出す。
そして、こんな時代はもう2度と来ないだろうなあ、とも。

以上




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