湘南…。

 なんていい響きなんだ。関東の若者が海水浴に、サーフィンに、と集まる夏のメッカ。一夏を彩る風物詩のような言葉の響きをかもし出す。TUBEは、91年、自分たちの高校時代を過ごした、この湘南への想いをつづり、アルバム「湘南」をリリースした。もうあれから、10年。月日の経つのは早いもの。でも、10年経っても色あせないアルバムである。

 シングル「湘南 My Love」は、この初夏のシングルにしてはめずらしくバラード。アコーステックギターが全体に渡ってサラサラしたサウンドを作り、聞かせどころではエレキギターがうなりまくる。間奏のギターソロも泣かせる。サウンド的には、全体に渡って、前の年の「NATSU」同様、シンセサイザーを多用していると言えよう。「十年先のラブストーリー」などは、シンセあっての、あのアレンジ。しかし、この「湘南 My Love」に限らず、アルバム「湘南」は曲もさることながら、歌詞が非常にロマンチックかつノスタルジックで、青春時代を思い起こさせてくれるアルバムである。胸の痛いところを突かれる想いだ。

 6月10日、新幹線で小田原まで行き、東海道本線に乗り換え、JR藤沢で降りる。そう、藤沢ワクワクラインである。そこから、江ノ島電鉄(以下、江ノ電)に乗り換え。すかさず、「湘南」をテープに入れ、2曲目「はよつけ鎌倉」から始める。江ノ島駅まで約10分。やはり、「はよつけ鎌倉」にも謡われているように、車内の冷房の効きは悪い。しかも、狭い。10分の辛抱だ。鵠沼を経てもまだ、目の前には海岸線が広がらない。車体と民家との距離は約30センチとなるところもあった。そして、江ノ島駅に到着。

 駅を降りて、海岸の方へ歩いていくとやはりカップルが目に付く。みんな、TUBEやサザンのファンに見えてしまうのはどうしてだろうか? 徒歩5分で海岸線に着く。134号線はやはり渋滞。青信号でも動かない。江ノ島が向こうに見える。でも、「湘南」のジャケットにあるような風景ではなく、やはりもう少し遠くから望むほうが良いみたいだ。海岸に行くと、やはりサーファーがたくさん。波は思ったほど高くない。ここで、カセットを再び回すと、「茅ヶ崎 Pipeline」だ。

♪ 寂しげな砂浜には・・・

 潮風を浴びて心地いいが、結構な人の多さに曲の雰囲気が出ない。個人的には、TUBEをこんな日本のごみごみした海岸で聞くのは、非常に抵抗がある。なぜなら、「NATSU」や「Beach Time」のようなクリスタルな海をバックにした曲を聴くには、神聖なる場所でしか聞いてはならないという個人的なポリシーに反するからだ。しかし、「湘南」は非常に身近な日本の夏を歌っており、このようなごみごみした風景にもばっちりはまってしまうから、不思議である。

 ここに来たのは、1つの大きな目的がある。名曲「十年先のラブストーリー」を夕方の静かな海岸で聞き、感傷にふけるために来たのだ。だからこの曲を思う存分味わえる静かな海岸を探さずには、ここにわざわざ来た意味がない。再び江ノ電に乗り、一路ヒガシヘ行け。途中の路線で、堂々と電車が車道のど真ん中を走る。江ノ島駅を過ぎて、3分もすると目の前に突然、海が広がる。いかにも湘南に来たという気分だ。

 稲村ガ崎駅から、徒歩7分で稲村ガ崎に着く。見晴らしのいい高台に上ると、東は三浦半島の油壷、葉山が一望でき、西は江ノ島が見える。そう、これが今回、私が目的としてきた風景である。再び、カセットを回し、「めぐりくるSeason」。カップルを見ると、ロマンチックな歌詞が雰囲気を盛り上げてくれる。

♪ 輝いた日々もいつか青春のピンナップに変わるから・・・

 ここから西へ、長い海岸線が続く。幅は20mぐらいしかないが、彼方に江ノ島が見え、やっと「湘南」のジャケット撮影が行われたと思われる光景が目の前に広がる。日没まであと2時間。ここで「夏よ走れ」を聞いても仕方がないので、「葉山で Dance! All Night」へ。

♪ 恋が似合う季節、行かないで・・・

 夏が目の前を過ぎていってしまう、そんなせつない想いを歌った歌詞も、まだ聞くには早い時期ではあるが、なぜか夕暮れ時にははまってしまう。そして、カセットを再びA面に戻し、「湘南 My Love」。

♪ 8月の波間に恋が砕けた・・・

 打ち寄せる波に何を感じるか、それは個人個人異なるが、この砕け散る波間にひと夏の恋のせつなさを込めた、このフレーズを聞くと、思わず背筋が熱くなる。

 海岸線を一人たそがれながら歩いていくと、ファミレスの駐車場を横切り、さらに広い砂浜に出た。かもめが飛んだ。10代の若者がたくさん集まっている中をくぐりぬけ、砂浜をさらに波間の方へ進んでいった。カセットの準備はOK。94年の野外ライブで演奏されたライブヴァージョンの「十年先のラブストーリー」をセットする。少し、ゴージャスな気分だ。前田が訴えるように歌い、かつ、せつない響きがもうたまらない。臨場感は最高潮。ギターソロがうなりまくる。興奮と感涙の5分30秒間であったが、目的を達成した気分は最高だ。

もうこれで帰れる。

 これで終わりか、という感じであるが、やはりTUBEを愛するものとしては、この湘南の雰囲気は死ぬまでに一度は味わっておきたかったのである。このアルバム「湘南」への想いは、ひときわ強くなってしまう。やはり、前田自身も青春時代への遥かなる想いを刻み込んだだけあって、1曲1曲に歌の主人公と自分をだぶらせてしまうものあり、せつなさが胸に込み上げる。以下、背筋が冷たくなるようなフレーズを書き出してみた。何の曲か、TUBEファンならすぐわかるでしょう。

・渚の夜空に流星が2つ、駆け抜けてく甘い記憶が消えてゆく。

・風が乾けば、魅惑の季節、自由満腹ゲスト達ゃ、極楽を目指して・・・。

・鵠沼で夏が笑えば、またひとつ素敵なストーリーあふれだす。

・眩しさにときめいて、心も踊り出すシーズン、ジリジリ太陽はもうすぐやってくる。

・輝いた日々もいつか青春のピンナナップに変わるから。遠い夏のかけらそっと胸にしまおう。

・海沿いのカーブ過ぎたら、出会いのマリーナ。くちづけは、潮風のしょっぱい味がした・・・。

・抱きしめた時は、死んでもいいとさえ、思えた夜は嘘じゃない・・・。

・ガラスの氷みたいに、溶けては消えた恋・・・。

・始まりと終わり、二人の熱い涙、砂浜だけが知っている Woo,Woo

 

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